■建築研究報告

PC版接合部におけるオープンジョイントに関する研究

瀬尾文彰、依田進

建築研究報告  No.60,  1972  建設省建築研究所


<概要>

  目地内にモルタル等を充し密実にする形式の目地を充目地filled jointという。従来プレキャスト版の目地はほとんどこの種の目地でおこなわれているが,この形式では充部に亀裂や剥離による隙間がかならず発生すると思わねばならず,しかもひとたび発生すれば毛細管からの雨水浸透は容易かつ顕著である。なぜなら巾の狭い隙間では毛管圧によって浸透するばかりでなく風圧によっても著しく浸透を促進されるからである。それにたいして充分幅広い隙間では毛細管現象が起こらないうえに,隙間が水で閉塞されないため風圧の影響もこうむらない。そこで外壁の接合部では密閉につとめるよりも,逆にはじめから隙間を大きく開けておくほうが防水上すぐれた効果を期待することができる。こういう考え方によって,防水上の性能を達成する意図のもとに目地を故意に空洞のまゝ放置する形式の目地を開き目地open jointと呼んでいる。
  また目地を充分weathertightにするためには,防水と気密の機能を分離し,手前の層(rain barrier)で雨水を止め,奥の層(wind  barrier)で通気を防ぐ設計とすることがのぞましい。filled jointではモルタル等を充し外面をシールした単一の層があるのみで,これがwind barrierとrain barrierを兼ねているため,ごく小さい亀裂でも発生すれば強い風を伴う雨によって容易に犯されてしまう。open jointでは,目地の奥部に設けられたair sealに雨水が達するならfilled jointと大差ないものになってしまう恐れがあるが,目地の形態を工夫することによってair sealが濡れないようにできれば防水性能上完璧な目地になるであろう。
  したがってオープンジョイントの原理は目地の前面にひさしに似た防護装置を設けることによって,目地を降雨の襲来から保護することだと考えてもよい。いうまでもなく,オープンな目地部分が変形したひさしに相当する。そこでオープンジョイントの問題は,処置が簡便でかつ充分な防護機能をそなえた,ひさしに代わるオープンな隙間の形態とはどのようなものかという問題に集約される。オープンジョイントの設計とはこの隙間の設計にほかならず,オープンジョイントの性能とはこの隙間の防雨性能にほかならない。
  最近,充式目地の欠陥が明らかになるにつれ,オープンジョイントの開発を求める声が高まっているにもかゝわらず,従来わが国に於いてオープンジョイントに関する系統的な研究が行われた例を見ない。諸外国に於いてもきわめて少ないのが実情である。そういう中で本研究は,オープンジョイントのシステマチックな設計を可能にする基礎データを得ること,いいかえれば,目地形状あるいは外的条件にかゝわる諸要因と雨水の浸入現象との関係を明らかにすることを主なる目的として行われた。すなわち,透明プラスチック製の模型ないしコンクリート目地模型を対象として防水実験を行い,外的な諸条件に対して目地が保持している防水性能を可能なかぎり系統的に研究した。さらに,それら研究成果にもとづき,実用的なオープンジョイントの試設計を行い,今后の開発の一助とした。  本論文の概要は次の如くである。第2章から第5章までは水平目地の研究にあてられている。すなわち,第2章では水平目地に対する雨水の浸入機構を定性的に明らかにし,第3章では侵入機構の細部を定量的に検討し,第4章では雨水の浸入高さと諸要因との関係を検討し目地の性能を定量的に研究した。以上はプラスチックモデルに関する実験研究であるが,第5章ではコンクリート目地に関する実験を行いプラスチックの場合との比較を行った。第6章では垂直目地の防水性能を研究した。第7章ではオープンジョイントの原理が成立するための必要条件として,目地が雨水によって閉塞されないための条件を研究した。第8章では,オープンジョイントの試設計を行い,その性能を実験によって検証した。第9章には本論文の結論を述べた。



建築研究報告一覧へ戻る |  出版物へ戻る



前のページに戻る



 所在地・交通案内
関連リンク
サイトマップ
お問い合わせ
リンク・著作権


国立研究開発法人 建築研究所, BUILDING RESEARCH INSTITUTE

(c) BRI All Rights Reserved